LED 40W型直管修理 by とらやまねこ 2024/01/08


はじめに
 仕事場や自宅のLED化をここ数年試みていた。換えてみて良かったのは電気料金が見違えるほど下がったことだ。
またふれこみとしては、5万時間というライフが謳われていたから、それを信じると大変有り難いこととなる。
しかし現実は異なり、40W型の直管は12本ヤフオクで購入して、使っているのだが2〜3年以内に3本が切れてしまった。
同様に自宅の60W電球は、4本すべてがやはりそのくらいで切れてしまった。
 もともと家電の修理も趣味だから、分解しようと捨てずにとっておいた。正月になんとかしようと、漸く気が入った報告である。

1.中華製 LED40W型直管
分解はソケットと管の間にへらを差し込んで外す、よく見る白いシリコン樹脂ぽいやつだから、ぼろぼろ切れる。
ドライバーICはYT2253Cと刻印されているが、調べても分からない。
RCS(電流検出[設定]抵抗、)の値とピンコネからBP2866と同じであることが分かった。定電流の非絶縁降圧型SWレギュレーターである。
レールに実装されたLEDはすべて健全で、これは高品質の印象、3V、LEDが4つパラになり、それが24シリーズとなっいるから、72Vとなるが、実測値は73〜75Vであり、電流は実測で197ma、設計値は200mAだろう。RCSは1R8と2R2のパラで0.99Ω。
基盤は両面で2X3cmしかなく、Dドレインの熱を銅箔に放熱している工夫はしている。これで15W駆動しているのはすごいと思った。
 3本切れて、故障の原因を探ると
2本は ICの不良(かなり低品質なのだろう、通常セカンドソースというが、パクリソースと呼ぶのが適当か)
〔追記、1/22今日1本が少しちらついている、光量も僅かに低め、に気づく、C2の不良と疑い、ソケットを外し基盤を見ると、多量のロウがかぶっていて、放熱は悪そうなので外す。4.7/250のSWレギュレーター用に交換、光量もどり修理完了。
 昔の蛍光灯じゃないけれど、ちらつきが生じた時点で直せばICまで破損しなかったのかもしれない。パクリソースは汚名返上か。
付いていたC2はパンクなどの外観上の異常はなく、ということはこれが性能上の寿命だったのだろう〕

1本は 平滑C2の不良であった。不良率は25パーセントと驚異的なところが中華だが、逆に思えばまだ健全なのも多いともとれる。
左は平滑Cを外したもの。AC整流平滑C15μF /400VがIC表面に付けてあるのは、Cのアルミケースを放熱に使っているのだろうか、接着剤で付いている。あまり感心はしないが、このCからの発熱は少ないので、良いアイデアかもしれない。
回路図

2.OHM社製 LED60W型電球

LED電球が安くなっての出始めの製品だった。まだダイソーの110円LED40W型電球は無い頃で、価格は300円か400円ほどだった。
分解は当初、ポリカーボのグローブを根本で切って外したが、例の白いシリコン樹脂みたいなもんで付いているので、力を入れ回すと外すことが出来る。
オーム社であり、ロームではない、家電関係の製品を出している良く目にするメーカーのようだ。
ドライバーICはBP9916Cで、やはり定電流の非絶縁降圧型SWレギュレーターである。基盤は片面紙フェノール。
残念ながら、全滅の製品である。
設計は日本人の技術者のような気がするが、肝心なところが脆弱で2点ある。
1点はLED自体の放熱が、うまくされずに飛んでしまったか、チップの品質に問題があったか。
2点はSWレギュレーター出力の平滑Cの選定を誤ったかで、専用のSWレギュレーター用のESRが小さいC、リップル電流の発熱に耐えられるCを使わなかったこと。写真の通り5φの小さなCで130℃品だが、熱で塩ビの皮膜がばらばらに外れて裸になっていたから、相当な発熱だったのだろう。(左側C、右側Cスリーブは残っている個体だが下部は外れている)
固体ケミコン(現状高耐圧はないが)でなければ、耐圧を上げるとか、8φ以上の大きさ、長寿命を目指すなら所謂SW電源用の性能の良い信頼できるメーカー品を選ぶべきだ。(追記:このモデルは現行機種でもあるようで、2017年から5年間補償を謳っているから、これら欠点はすでに改善されているのだろう)


9VLEDが8個シリーズ、それが二つパラ、72Vで100mAが設計値か。放熱には、蓋状のアルミの表面にグリスをつけて、さらにソケット方向にも大きなアルミ材があり、そこにねじ込まれ放熱、厚めのプラで覆っているのは絶縁のためだろうが、放熱に関しては不利だろう。ただ全体的には7.1Wの放熱設計としては堅実だ。ただLEDのチップにはひびが入り飛んでるものが少なくない。チップを実装した基盤(左の円形)のAl板が厚ければ良かったかもしれないが、28mmφのサイズに7.1Wは熱そうである。
実際の温度上昇は大きかったのだろう。触るとソケット金具までもかなり熱くなっていた記憶はある。私の経験では、AFの設計では、抵抗でも半導体でも1W以上の損失から気をつけるようにしていた。半導体のジャンクション温度は高くなったし、MOSは負の温度係数を持っているといっても7Wもあれば、それなりの対処は必要で。若し不十分なれば、極端には半田が溶けることも想定する。

基盤裏面にIC、R、Diodeが実装されている。IC、BP9916Cの1から4pinがまとめられて、大きくハンダが盛られているのは放熱のためである。片面基盤だから、裏面に逃がすことは出来ない。出力のDドレインからL、C、Di、Vccへのリターンは最短とする。

OHMの60W電球型のLEDドライバーを40W直管型LEDの駆動に流用できるか?
 BP9916Cのデータを調べると、最大定格(多分)で200mA流せるとある、また出力の電圧は72Vなので、何とか直管LED75V200mAを灯せそうでもある。
変更するのは、下記のRCSを3から1.5Ωにする、5.1Ωと2.2Ωをパラにした。"2R2"のチップ抵抗を在庫から探すのに苦労した。FDD基盤にあるのを発見。
出力の平滑C4.7μFは手持ちのルビコン4.7μF/250Vの標準品に交換。あと10x8mm銅板0.3tを1から4pinに載せた。熱設計をしている訳でないので、いい加減だが、器具に取り付け5分間動作させて、ほんのり熱が感じられる。オリジナルはPCBが暖かくなる。L2からは発熱は感じる。冬季なので、夏期の実働でどうなるかは不明。 LEDからの発熱はあるのだが、反対側の放熱の良いレールに分散されているからか、大きな影響はなさそう。
L2インダクターは、大きさが直管のと同じであったのでなんとかなるだろうという推測でしかなく、値も不明、大きめの方が安心ではある。コアが磁気飽和を起こすとCへ流れるとリップル電流が増加する。
肝腎の明るさはオリジナルと同じ、定電流だから同じ値にすれば、同じ明るさになるのは当然。IC自体の精度も良いのだろう。

このICではSソース側に放熱するようになっている。

追加した放熱板は盛られたハンダに付けた。左はソケット、下にLEDレール、右は管。
左は管、右はソケット、下にLEDレール、灰色線は反対側のソケットからACを取るレールの箔にハンダ付け。基盤の幅は広めだったので、管に入るように削った。-極性表示が見える 4.7/250は8.6φ。
総評
 いろいろ勉強させてもらったが、LEDドライバー回路は熱との戦いなのかもしれない、まあ最近はLEDの輝度もあがり損失が減り、発熱も少なくなっただろうから、既に過去のことかもしれない。
LED駆動用の専用ICに寄るところが大きく、少ない外付け部品で済んでいることは感心する。
それはまたSW電源の効率の高さがあって小型化と発熱を抑えるのに功を呈している。よって非絶縁型にしたのは必然だったのだろう。
LEDはダイオードなので、立ち上がりの電流増加は鋭いから、定電圧では安全とは言えず、定電流駆動されるのだろう。
 さて壊れたオーム社の60W型は、ダイソーの40W型(4.4W)に交換して今は使っている。この110円LED電球は諸氏の分解記事を拝見すると、大変まじめに作られているようだ。5Wであるが明るさはオーム社の60W型と変わらない、LEDの性能が上がったのだろうか。今触ってみても根元は少し暖かい程度である(気温は18℃)。
以上、諸氏のご参考になれば幸い。

電子工学の技術屋のはしくれとして
 良い機会だし、長年プロではないがアンプ作りや修理をやってきた経験から、偉そうに総論的な話をしたいと思う。
修理というのは実は難しい仕事だ。新規の設計は容易とはいわないが、修理より簡単だ。
というのはその家電なり、機器がランニングして、長らく使われたあとに故障は生じるからだ。そして、修理するには故障原因と故障箇所を見つけ出さなければならない。回路図に落として、動作原理を把握して、部品定数を拾うという才覚がなければ難しい。最終的にはセンスなのかもしれない。
 経験からは、不都合が起きるのはだいたい1カ所や同様な構造の箇所だけで、レンジならパワーSWの発熱、ヒーター線接続端子熔解切れなどで、機器は機能を果たせなかったり、壊れてしまう。たった一カ所で大変残念なことになることが多かった。Diのショートはあまりお目にかかったことはないが、1回だけソニーのテレビであった。しかし未熟者だったので他のところをいじり、結局壊してしまった。まさかDiがねと思った。
 そこで初めて、初期の設計の欠点なり、パーツの信頼性という間違いに気づくからだ。
ただそれは設計した技術屋の技量や経験、才覚により左右されていることが分かるものだ。
すなわち、何年後、或いは何万時間の使用後にはどのような不都合が生じるのか予測できるかというのも織り込めていたかということだ。
或いは、致命的な欠陥、火災につながるような事象を起こさないための保護策も設計には、考慮するが、此は基本。
要は、どれだけ製品に知性をつぎ込んだかで、製品の善し悪し、即ち完成度と信頼性は決まると感じたのはわりと若い頃だった。
 さて、メーカー製の家電なり製品を修理すると、メーカーごとにその特徴がある。ソニーは確かにソニーらしく。松下は松下らしく。東芝は東芝らしく。シャープはシャープらしく、日立は日立らしく、キャノンはキャノンらしく、三菱は三菱らしい。それぞれ信頼性と修理のしやすさという一番大事な要素にかけるウエイトは異なる。
 パーツの消耗度合いと、寿命の予測が出来て、修理、すなわち部品交換のしやすさなどにより分かるのだ。ちなみに一番やりにくいのはソニーだ。
また技術マニュアル、サービスマニュアルの善し悪しも(入手できればだが)差がある、テクトロやHPなんて本当に良いお手本だ、やはり軍用だからだろうが、一定の技量を持った技術なら修理が完璧に出来るようになっているのは流石である。
今回のLEDドライバーは、安価な製品で、コストとの戦いという点は理解できる。中華と国産では設計の考え方は幾分異なる気もした。別に中華は悪くて国産は優秀と言い切る気はない。技術屋としては限られた資源で、最大の性能を得るための努力をするのが使命だと考えるからだ。
削られるところは最低限まで削り、ねじの本数も最低限まで減らし、それで目標としてはスペックを満たせばいい、コストを考えないアマチュアの自作とは反対の考えだ。
 半導体、抵抗は品質が良い物で、設計に無理がなければライフは半永久的だが、電解コンデンサー(ケミコン)にはライフがある。特に今回のC2のように酷使されてれば尚更だ。コンデンサーメーカーにより技術力の差は大きいから、値と耐圧が合ってれば済む問題ではない。

また設計には勘所というのがある。センスといっても良いだろう。これが見極められれば一人前だ。ノウハウの蓄積とカットアンドトライは必須である。
今回のLED電球の設計の勘所の一つに、放熱設計がある。構造上ポリカーボの球形グローブに覆われ、熱はこもりやすいから、口金方向に放熱の構造を作るしかないのは苦しいところで、直管なら管内の容積は大きいので良いが、グローブは丸だから難しい。
 ソリューションを考えれば、下部の放熱の構造は、絶縁しなくてはならないことが欠点で、厚いプラではなく、熱伝導性がよい絶縁塗装で済ませれば良い気もする(規制はあるのかもしれないが)。或いはグローブは規格があるのだろうが、大きめにして、何らかの換気構造を考えてもいい気がする。
いろいろなアイデアを想起することは電子工学に限ったことではない、物作りでは世の常ではある。

新しめのLEDドライバーIC、NXPのSSL21081 2024/01/15

やはりOHM社製だが大きいボール電球 型番は不明(LDG8L-G 7DAS20?売価は2000円位:追加情報)白色塗装の大きなキャストの放熱器、前述60W型と比較すると、放熱に関してはかなり豪勢な仕様。LED基盤は48φmmと大きく、チップにひび割れは生じていない。安価な汎用品ではなく、高級品なのかもしれない。ドライバー基盤は50X24mm。SMDは5030?14個で、1個にふたつLEDが入っている。

整流ブリッジの前にラインフィルターが入る。これはSW電源のインダクターではない、またそのインダクターL2はかなり小さめである。また平滑のC2に相当するケミコンがないが、データシートを読むとその謎が解ける。
唯一のケミコンC1はなんとルビコンで、CFX。

SSL21081のデータシートの日付は、2013年だからもう10年前のドライバーICだから最新ではないが、これまでお目にかかったベーシックなSWレギュレーター+MOSFET出力段からは、かなり進化している。図中、表示ないCは151なので150pF?
浅学にて理解には至らないが、BCM (電流臨界モード)によりL2インダクターは小さくて済み、バレー検出によりC2はケミコンの必要がなくななったのだろうか(この点不明)?
また回路図4pinNTCピンはLEDの温度検出とPWM調光につかうことができ、出力電流を制御するようです。
効率が最大で95%というのも進化だろう。もう特別にICの放熱を考慮しなくて良くなったのだろうか。流石はフィリップス。これなら5万時間も大丈夫か。
具体的に5万時間とは、一日12時間毎日使用して、10年以上は使えますよ・・

新旧LEDドライバー基盤
右はレトロなドライバーで、パナ製10W、専用ICは存在するが、外付け部品が多いし、MOSFETも外付け、インダクター(絶縁型ならトランスとなるが)は発熱が大きかったのかピンが全部外れている始末、ケミコンを熱から守る涙ぐましい努力。
真ん中は先述のもの7W。左が今回ので、L2インダクターがかなり小さい。5.5W